「嫌いじゃないけど、好きでもないもの」
その言葉にどっと会場がわき上がった。何かの冗談のように聞こえたのだろう。
霊夢は、それどころではなかった。突然、胸の内がどくどくと沸き立ってきた。意味は分からなかった。理由も、判らなかった。けれどアリスの端麗な言い方に胸の内がえぐられるようだった。冷たい氷で出来た刃で、小さな心臓をくりぬかれるみたいな気持ちになった。
自分でも知らぬうちに切ない恋をしていたのだった。けしてかなわぬ片恋を。
外から聞いているだけでそうなったのだ。直接言われた魔理沙の方は、それどころではなかっただろう。
ほとんど燃え尽きたように虚脱して、ぺたりと畳の上に座り込んでいた。心配した河童や本読みがまわりを取り囲んでぺちぺちほっぺたを叩いていたぐらいだ。
それでも宴会は続いた。何事もなかったみたいに、大騒ぎは続いていた。歌うものは歌っていたし、踊るものは踊っていた。
誰かの胸を傷つけた当の人形遣いは、その端正な顔を歪ませることなく、ただ一人静かに酒杯を傾けていた。
それが昨晩のことである。
昨日の夜からずっとため息ばかりついているのはそのせいだった。アリスのことを考えると、胸の中はじんと熱くなるのに、頭の芯のところは不思議なほど冷たくなる。どうしたらいいのか自分でも判らない。
そうしてようやく自分は恋をしているのだと自覚した。こんなことは初めてのことだった。少し前まであこがれていた空想の中の恋とは違う。もっと切なくて切実なものなのだと感じた。
宴会の帰りがけ、彼女が、少し風邪っぽいのだと言っていたのを聞いた。霊夢はそれを覚えていた。様子を見に行こうかどうしようかと、朝からずっとそれを思い悩んでいる。