魔理沙はもう、諦めかけているみたいだった。
アリスが消えてしまってから、たった一週間しか経っていないのに。
「飛べないことに慣れてしまったら終わりなのかな」
ぼうっと、外を眺めていた。一羽の蝶が庭に降りてきた。綺麗な瑠璃色をした羽虫だった。息もかかりそうなほどの近くにまで寄っては、すぐに離れていった。
「流れ星は掴めないって分かってるみたいにさ」
空にはどうせ届かない。崖の花には触れられない。
そんなことを口ずさむように言った。
「やめてよ」
そんなことは聞きたくなかった。霊夢の知っている彼女は、もっと前向きだったように思う。今はもう昔のようではないけれど、それでも。
それでも魔理沙は蝶を見つめたままでいた。
「たった一つの冴えたやり方を知っているか?」
「何の?」
「この世界を、どうにか幸せにするやり方さ」
暗い目をして、魔理沙は呟いていた。
「嘘の世界に幸福論があるのだとすれば、それはきっとありふれた方法なんだろう」
「素面でよくそういうこと言えるわね。感心するわ」
「他に言うべきことなんて無いからな」
霊夢が賢明に茶化そうとしても、魔理沙は表情を曇らせたままだった。昔の呑気さや明るさや軽さは、どこか宇宙の果てにでも消えてしまったみたいだった。ついこの間までは馬鹿話をして笑い合っていたというのに。
曇り空と同じように空気が少しずつ歪んでたわんで重く垂れ込めていくようだった。窓も雨戸も全部開け放しているのに、風を通すように心がけているのに、その柱や壁や土間に潜んだ暗がりが少しずつ空気の色まで浸食していくみたいだった。
「なあ、霊夢」
まるで、付け足すように、魔理沙は言った。
「私と一緒におばあちゃんになってくれないか」