「山に、ね」

「ん?」

目と目があった。じっと見つめられる。何だか無性に照れてしまって、霊夢は目をそらす。どうしてだかは判らない。

ただ何とはなしに、真剣な顔をしている射命丸が珍しかったからかもしれない。

「綺麗な楓があるんですよ」

「この間貰ったものかしら?」

「そうそう。それを使ってね、」

こほん、と一つ咳払いをした。すこしだけ緊張しているようだった。

「恋文を取り交わすのが鴉天狗たちの間で流行っているのです」

「……ふうん」

一拍だけ間が空いた。何故空いてしまったのか、霊夢は自分では判らない。けれど、空いてしまったことに少しうろたえた。というより、『自分がうろたえたかもしれない』ということを外に出してしまったことに、うろたえたのだった。

射命丸は甘えるように、小首をかしげて見つめた。

「霊夢のお返事が、欲しいなって」

「だって紅葉は無いわ、此処には」

言いかけたそばから、はい、と差し出された。

「……用意が良いのね」

「ストーカーですから。愛情に飢えてるんです」

そう言って、寂しそうに笑った。それすら演技なのだろう、と霊夢だって思わないことはない。それでもわずかに胸を打たれないではなかった。

「書くものもありますよ」

そっと手ごと握られて、筆を渡される。ひんやりとした細い手に湯飲みを奪われて、遠くへ運ばれる。目の前に据えられた木の葉に集中せざるを得ない。

それでも触れている手の感触に少しだけ胸が高鳴る。そうして高鳴ったことにどこかだまされたような気がして、焦る。毎日のように好きだとか愛してるとか言われ続けて、気持ちをかき乱されていると、そんな積み重なる困惑を勘違いしてしまうのかもしれない。

何も書かれていない葉の表面をじっと見つめる。特に何も浮かんでは来ない。それどころではない。