「ねえ、一緒にいきませんか」
と言い出したのは神子だった。豊聡耳神子。常ならば厩戸皇子の敬称で呼ばれる。

その日は豪族一同集まって誰だったかの結婚を祝う宴があったのだった。大人たちが歌ったりおどったり、お酒を飲んで騒いでいる中、連れてこられた子供たちは誰もが、どこかしらけたような顔をして立っていた。その中でひとりだけ大人びた顔立ちで、神子はわたしのことをじっと見つめていた。そうしてするすると近づいてくると、出し抜けに声をかけてきたのだった。

「なぜ人間は死ぬのか、って世界に対して、一緒に問い詰めてやるんですよ

  • <list:item>
  • <i:なぜ、ひとは死ななければならないのか>
  • <i:なぜ、いつまでも子供でいられないのか>
  • <i:なぜ、楽しいときは終わってしまうのか>
  • <i:なぜ、すべての物語には結末があるのか>
  • </list>

どれだけ逃げても逃げ切れないぐらいのしつこさで、世界に向けて問いかけてやるんですよ」
それはまるきり自分自身の言葉のように聞こえた。日頃思っていることそのままが、神子のくちびるからこぼれおちていた。

この無数の死にあふれた世界にあって、完全に孤立していたといえば嘘になるけど、それでもわたしは日々感じていた。

  • <declaration>
  • <i:誰もが同じようにしんでいくのは間違ってるって>
  • </declaration>

つい先頃の戦乱を忘れたかのように、宴の時は緩やかに過ぎていく。未だに国のそこかしこに戦の火種はくすぶっていたけれど、わたしたちのいるこの一瞬は平和そのものだった。水田の底にはどろどろとした憎しみの汚泥がわだかまっていても、稲の穂先はさらさらとさわやかな風に揺られているみたいに。じきにくる嵐のことなど考えもせずに、気ままに揺らいでいるみたいに。

「ねえ、知っていますか? 物部布都」
かがり灯の火影に目を輝かせて、神子は言った。

「……どうして、わたしの名前」
「知らない訳がない。わたしは耳が良いのです」蘇我と婚姻した物部の姫君のことはよく聞いています。そこで行われているたくさんの秘術のことも。sariraから逃れるための厳しい生き様のことも」
声を出さずに神子は笑った。濃い闇の中に溶けていくようだった。