「あのね、
 帰ろうとしたところで、に話しかけられた。

「映画を見に行こう、なんでもいいから」















きっときみは

2005.12.25 merry christmas



















 そう言われると、ものすごく悩む。

 普通、映画って、見たいものがあるから行くものじゃないだろうか。
 それなのに「なんでもいい」なんてのは、なんだかおかしい。

「映画じゃなきゃだめなの? 水族館とか美術展とか、そういうのじゃなくて?」
 たずねると、は子供みたいにふるふるって首を横に振った。

「映画がいいの。なんか、デートって感じがしない?」

 女の子二人で、デート……ねぇ。
 そう言われても、いつものボケか、と思うだけで、深くは考えなかった。
 別に顔が赤くなったりもしない。そんなことでいちいち反応していたら身が持たない。
 と一緒だと、その、いろいろと大変なのだ。


 もし、好きだって打ち明けても、にかなうはずはないんだから。
 だから、こんな思いはきっと、むだだ。
 好きな気持ちをおさえて、友達としてずっとここまでやってきたんだ。

















 
 それでも結局、無難なアクション映画にしたのは多分、照れてしまったからだと思う。
 恋愛映画もヒューマンドラマもなんとなく困る。
 痒くなって、いたたまれない気持ちになる。
 自分がと一緒に、そんな映画を見ているなんて耐えられない。
 自意識過剰なのかもしれないけど、なんとなく似合わないような気がする。

「すごい、並んでるね」
 が言った。

 言葉の通り、上の階から長蛇の列が伸びていた。階段から玄関まで続いている。
 私たちが切符を買うと、出てきた整理券はなんと三百番台だった。

「うん。すごいね。やっぱり他のにしとけば良かったかな……ごめんね、こんなに並んでるとは思わなくて」
 自信が揺らぐ。
 この映画を選んだのは、私だから。これでもしも面白くなかったらどうしよう。

「すごい人気なんだね。楽しみ!」
 彼女はそう言って、小さく笑った。

 単なるフォローでそう言ったのではなくて、心からそう思っていてくれる。
 彼女の、そういうところが、とても好きだ。


「ねえ、
 二人で並んでいるとき、ぽつりと彼女が言った。

「なに?」
「クリスマスソングって、どうしてせつないうたばっかりなんだろ」
「あ、確かにそうかも」

(クリスマスキャロルが流れる頃には 誰を愛してるのか 今は見えなくても)
(Last Christmas, I gave you my heart. But the very next day, you gave it away.)
(いつまでも手をつないでいられるような気がしていた)

 そして、今、町中を流れているのは。

「きっと、きみは、こーなー……むぐ」
 途中まで口ずさんだところで、手のひらでふさがれた。

「歌わないで」

 彼女が妙に真剣な目をして頼むから、こくこくうなずいて、大人しく口をつぐんだ。
 
 手が離れたとき、ちょっといいにおいがしたなあ、なんて思った。
 その瞬間に自分がホントにヘンタイみたいで、かなり凹んだ。
















 そして、映画が始まった。

 人がものすごいイキオイで死ぬ映画だった。
 出てきて平均三十秒で登場人物が死ぬ。
 銃弾と爆発の大安売りで映画の70%は作られていた。
 残りのうち10%は、唯一の生き残りである主人公のアップ。
 10%は死んだ恋人への追憶。
 10%は名前しか出てこない組織への怒り。

 正直、ありふれた映画だと思った。

 でも、暗闇の中であくびをかみ殺していた自分とは違って、
 彼女は何かが爆発するたびにびくりと震えていた。

 彼女の手を、握ってあげたかった。
 握って、安心させてあげたかったんだと、思う。
 でも、本当はただ、彼女に触れたかっただけなんだと、心の底では知っていた。
 浅ましい欲望を自覚しないほど、馬鹿じゃない。


 だから、両手を硬く組み合わせ、心を冷たく強く持って、
 ただじっと椅子の上で映画が終わるのを待っていた。

 轟く爆音が、近くて遠い心臓の音のように、強く響いた。















「面白かったね、
「……うん。最後の方よく分からなかったけど」

 映画は、最後の最後で、あっと驚くどんでん返しを見せ、
 誰も追いつけないような展開の速さで幕を閉じた。

 反則だ、とどの観客の顔にも書いてあった。
 多分、私の顔にも。

「もう一度見てもいいかも。あ、でもなあ……」
「うん。DVD出たら借りようかな」

 私がそう言うと、彼女は唇を噛みしめて、小さくかぶりを振った。

「やっぱり、いいや。見ない」
「え、そう?」

 彼女は、強く私の手を握って、立ち止まった。
 壁の方に引き寄せて、じっと目を見つめた。

「あの映画は、とだけ見る映画に決めた。
 だからも、わたしとだけ見て。他の人とは見ないで」

 真剣なその物言いに、驚かされた。

「え、あ、うん……」

 うなずくと、彼女は、本当に輝くように笑った。
 うれしかった。なんだか分からなかったけど。

 妙な、独占欲みたいなものを言葉のはじに感じた。
 でも、彼女になら、独占されてもいいと思った。

 彼女になら、どうされてもいいと思った。


















 冬の街はどこか他人心地だった。
 景色も建物も、変わらないいつも通りの街であるはずなのに、
 人と人の間に乾いた空気だけあって、何かを結びつけることはけして無い。

 私と彼女は間に空気を挟み、駅までとぼとぼと歩いた。
 二人きりであるはずなのに、一人でいるような心地がした。



「ねえ」

「え?」

 彼女が、数歩下がったところで立ち止まっていた。
 うつむいている。

 具合でも悪いのかと思って、あわてて駆け寄った。
 彼女は、うつむいたまま、私の目を見ずに言った。

「良かったら、今日、うちに来ない?」

「え、っと……?」

 唐突で、よく分からなかった。
 聞き間違いなのかとも思った。

 でも、そうじゃなかった。

「ゆどうふ、食べたいの」

 彼女は、まるで、愛の言葉みたいに甘く、その単語をつぶやいた。

「湯豆腐?」
「ホワイトクリスマスの練習」
「……豆腐が白いから?」
「うん。そう」

 冗談なのかと思ったけど、彼女は多分、本気だった。
 うつむいたままで、表情は見えない。
 でも耳がすごく赤い。

「いいよ」

 分からなかった。
 何一つ、分からなかった。
 ホワイトクリスマスの練習、なんて、そもそも言葉の意味が分からなかった。

 それでも、彼女がそう言うのなら、そうしようと思った。
 彼女になら、何をされてもいいと思った。














「えーと、じゃあ、ユーミンの『恋人はサンタクロース』は?」
「ダメ。暗い」

 彼女は即答した。

「ええー、なんであの曲が暗いのさ」
「だって、お隣のお姉さんはサンタに誘拐されて帰ってこないんだよ。暗いじゃん」
「……そっかなぁ」

 私たちが何をしているかと言うと、明るいクリスマス曲探しだ。

「じゃあ、普通に『ジングルベル』とかは?」
「ぜんっぜんダメ。だって、本当に楽しいクリスマスなんだったら、わざわざ『今日は楽しいクリスマス』なんて言わないもん」
「……そうかなあ」

 のチェックはなかなか厳しく、挙げた曲はほとんど却下された。

「ジョン・レノンの『Happy Christmas(War is over)』は?」
「戦争は終わらないし、I "hope" you have funだから却下。
 hopeは仮定法だから、現状は楽しくないってことじゃない」
「そうじゃないhopeもあると思うけど……」

 なんだかネガティブで不毛だなあと思いつつ、彼女の繰り出してくるヘリクツが面白くて、話を続けている。

「マライア・キャリーとかは? 『All I want for christmas is you』って」
「ダメダメ。そんなに欲しい欲しい言ってるってことは、やっぱり来ないってことじゃない」
「そうなのかなあ……」

 鍋に入れる野菜を切りながらの会話は、なんだかんだで楽しい。

「賛美歌とか……あ、でもなんか曲調が暗いかもね」
「うん。中世ヨーロッパとか修道院とか黒死病とか、そんな感じ」
「……絶対に騎士と姫君にならないところがなんていうかスゴイよね」

 馬鹿話をしながらも料理は進む。
 ツリー型のニンジンだったり、雪の結晶の形をしたネギだったり、
 かなり芸術点は高そうだが、肝心のダシはちゃんこ鍋のもとだったりするあたり、
 鍋自体にはあまりこだわりは無いらしい。

「そろそろコタツに持っていこうか。もう鍋に入らないでしょ」
「……うん」

 は少し遅れて答えた。
 何か、別のことを考えているみたいだった。

 卓上コンロに土鍋をのせて、沸騰し始めるのを待つ。
 ふたをした土鍋から、ちょっとだけ白菜がはみ出ている。
 煮ればかさが減るかな、と思って、とりあえずそのまま待った。
 湯豆腐というより、普通の鍋になっているのは、単にいろいろ入れすぎただけだ。

 でも、二人ともが入れすぎた、と気付かなかった。
 私は、の家に呼ばれて、緊張していたから。

 でも、彼女の方はどうしてだろう?
 ただ単にのいつものボケなんだろうか?












 しんとした家の中で、ガスだけがしゅうう、と一生懸命動いている。
 コンロのガスの音と、暖房のガスの音と。

「あのね、
「ん?」

 なんだか、死刑宣告を聞くみたいに緊張した。

「鍋って、なんか、一緒に食べる感じ、するよね」
「そうだね。一つの鍋をみんなで食べるのがいいよね」

 まるで腹のさぐり合いみたいな会話だと思った。

「あのね、だからね、鍋、わたしはね、」
「うん」

「一緒にいたい人としか食べたくないの」
「……うん」

 はみ出た白菜から少しずつ湯気が出てきた。
 小さくくつくつ言う音もする。

 でもまだ、食べるには早過ぎるだろう。
 でもまだ、気を緩めるには早過ぎるだろう。

「……一緒にいてくれる?」
「いいよ」

 気付いていたんだ。

「ずっと、だよ?」
「もちろん」

 最初から、気付いていたんだ。

「好き」
「うん。気付いてた」

 この言葉が、本当は、
 自分に向けられたものじゃないってこと。

 今日という日が、クリスマスデートの練習でしかなかったってことに。

「そういう風に、に言うつもりなんだよね」

 ひくりと、彼女の喉が鳴った。

「違うかな?」

 彼女は答えない。

「そんなに不安なんだ?」

 ふっ、と息だけで笑った。
 なんだか、馬鹿みたいだと思った。

 小さく、歌った。

「『きっときみは来ない』」
「……やめて」

「『一人きりのクリスマスイブ』」
「やめてよ」

「『silent night……』」
「お願い、

 名前を呼ばれて、歌うのを止める。
 鍋はもう、激しく沸騰していた。
 はみ出た白菜は、火が通ってくったりしている。

「別に、怒ってるわけじゃないよ」

 自分でも驚くほど、平静な気分だった。

 初めから、勝ち目のない戦いだって、分かっていたんだ。
 さっきまでの方がよっぽど心臓に悪い。

「最初から練習なら練習って言ってよ」

 変に期待させるようなことは、しないで欲しかった。

「ごめん」

 彼女はそれだけ言った。

 ごめん、と言って、全ての罪を認めた。

 それで本当に、それが本当のことなんだって、分かった。
 自分で気付いてしまったくせに、どこか心のはじで勘ぐり過ぎなんじゃないかって思っていた。
 そんな自分の甘さが、馬鹿みたいだと、心底思った。

「いいよ。のそういうところ、好きだよ」

 この言葉はなぐさめなんかじゃない。

「泣かないでよ、
「泣いてないよ」
「声が、泣いてるように聞こえるよ」
「泣いてなんか、ないよ」

 彼女のか細い声。
 泣くのなら、こっちの方だと思うのに、目が乾いてしかたがなかった。

「鍋、食べようか。煮えすぎちゃう」
「ん」
「ほら、しゃんとしてよ。デート中に泣いちゃだめだよ」

 私は笑って、器を手に取った。手が震える。
 普通にふるまうことって、どうしてこんなに難しいんだろう。

「せっかく、クリスマスなんだからさ」
「……まだクリスマスじゃないもん」

 子供が言い張るように、は言った。

「……クリスマスに、きっとあの人は来ないし」

 自信なさそうに、彼女は言った。

 そんな彼女を見ていられなかった。

、練習ならちゃんと最後までしようよ」
「え?」

 彼女は、何を言われているのか、分からないみたいだった。
 ただ、ぼうっとして、こっちを見ている。

 私は、しゅうしゅう吹きこぼれている土鍋の火を消した。
 それから立ち上がって、電気を消した。
 ガスストーブの火が、小さく青く燃えていた。

「カクゴがなかったわけじゃないでしょう?」

 彼女は答えない。
 私は、暗がりの中、手探りで彼女の小さな肩に触れた。
 そして、そのまま、強く床に押し倒した。

「……
「いやなら、ちゃんと言って。じゃないと分からないから」

 は、小さくかぶりをふって、
 それから、そっといとおしむように、私の頬に触れた。

は泣かないんだね、えらいね」

 えらくなんてない。
 私は、彼女のことが、欲しいだけだから。
 たとえ誰かの練習としてでも、欲しいだけだから。

「私のこと、なんだと思ってくれていいよ。そう呼んでくれてもいい」

 は、答えなかった。

 暖房の音が、いやにうるさかった。
 ちょっといらいらしたから、手を伸ばしてばちんと切った。
 静かになって初めて、自分が、思い切り彼女の上に乗っかっているのを自覚した。

「あ、えっと……ごめん。重くない?」

 言われた方は、思い切り噴いた。

「自分かららんぼうにしといて、そういう言い方ってないよね」

 くすくす笑いながら、彼女は言った。
 言われて耳まで熱くなった。

「いいよ」

 は言って、きゅっと私の背中に腕を回してきた。

「好きだよ、ほんとうに」

 その言葉の方がずっとこたえた。
 その言葉が、誰に向けられたことばなのか、分からないから。

 暗い部屋の、しめ忘れたカーテンの隙間から、街灯がちらちら白く光っている。
 しんと静かな闇の中で、胸の奥が苦しい。
 今なら泣いても気付かれないかもしれないと思った。

「私も好きだよ、

 ささやいて、互いのほっぺたを合わせた。
 しっとりと、濡れているように思った。
 唇と舌で、彼女の耳元から頬にかけて、なぞった。
 へんにしおからい味がした。

「ん、ふ……」

 の吐息が荒くなる。
 それを聞いて、胸のうちが、痛いほどにざわめいた。
 乱暴に早急になろうとする右手を押さえて、わざとゆっくり彼女の服を脱がした。
 片手で外せるはずのボタンも、両手を使ってたどたどしく外した。
 そうしないと、自分がどうなってしまうのか、分からなかった。

 は、ずっと何か言いたそうにこっちを向いていた。
 けれど、結局、全部脱がせてしまっても、何も言わなかった。
 次に私が脱ぎ終わっても、やっぱり何も言わなかった。

「きれいだよ、のからだ」

 自分でも月並みなセリフだと思った。
 もっと気の利いたことが言えればいいのに。

「……はずかしいよ」

 でも彼女だって、同じくらい月並みなセリフを返したんだ。
 お互いさまなのかもしれない。

 火照るほどだった空気が少しずつ冷めていって、肌寒いような気にさえなった。
 床に脱ぎ散らかしたお互いの服が、ごぉって通り過ぎたトラックの明かりに一瞬だけ照らされた。
 暗闇の中に白く浮いた彼女の肌に、自分の素肌で触れあって、頭がおかしくなりそうだった。

「あ、まって」

 彼女は言った。
 どきりとして、彼女に触れていた手を引っ込めた。

「……あ、やっぱりやめる?」
「そうじゃなくて」

 彼女はちょっと口ごもって、それから、そうっと私の耳元でささやいた。

「ちゃんと、キス、して」

 手足が、ぼうっと火がついたように熱くなった。

 床に手を着いて、上体を起こし、彼女の唇を見つめる。
 暗がりの中、うすぼんやりとしか見えない。それでも、ただじっとして、迷う。
 そっと息をついた。暖かな自分の息が、彼女にかかり、はね返って、自分にもかかる。

 きっと自分の吐息が熱すぎたんだ。
 吸った肺の奥がやけどしたようにひりひり痛んだ。

 痛みをこらえきれず、私はの上に崩れ落ちた。
 彼女は、その唇で、優しく受け止めてくれた。

 はじめは触れるだけ。ただ柔らかに合わせるだけ。
 ただそれだけで、永遠の中にいる気がした。


 いとおしい、その白い肌を、少しずつなぞっていく。
 右の中指がつりそうに緊張して、彼女の首筋を滑った。

「ふ、」

 彼女に触れる。お互いの吐息の温度が同じになる。

 自分の身体を支えている左手がぷるぷる震えていた。
 男だったら、こんなことはないだろうに。

「だい、じょぶ……?」

 彼女にそう言わせる自分が情けなかった。

「きて」

 は、わたしの背中に手を回して、思い切りしがみついた。
 体重を支え切れていなかった片手は、いとも簡単に崩れ落ちた。

「ぎゅっとするの、すきだから」

 ごめんね、と彼女は言った。

 私はかぶりを振って、彼女をつよく抱きしめた。

 ただ一つの身体になりたいと、願った。
 彼女と同じ、ただ一つのものになりたいと強く思った。
 誰のことを思っていても、これから先がどうなろうとも。

 恋人のような濃いキスをした。
 入り込んだこの舌が、ふたりをつなげる要となるように。
 お互いが立てた水音に、体中が熱くなった。

 背中に回していた右手でそっと、彼女の乳房に触れた。
 降ったばかりの新雪のように、柔らかかった。
 そのまま溶けていってしまいそうだった。
 
 でも、溶けていってしまいそうなのは、私の身体なのかもしれなかった。
 彼女に触れて感じているだけで、腰も足もしびれたようになった。
 おたがいの体温を交換しているただそれだけで、自分の中から何かが溶けて流れていく気がした。
 
「いくよ」
「ん」

 短い言葉だけ交わして、指を下へ滑らせる。
 背中に回された腕の力が、少し強くなるのを感じた。

「っ、ぁ、……」

 彼女が名前を呼んだ。他の誰でもない、私の名前を。
 どうして、ただそれだけで、涙が出るほど、うれしかった。

 つんと鼻がつまって、すすり上げたときに、一瞬手が止まった。

「やっ、やめ、ない、で」

 彼女がそう言ってくれるのがうれしかった。
 一緒に不安を感じてくれることが、うれしかった。

「いっしょ、いっしょに……」

 切ない声を上げて、感じてくれるのがうれしかった。
 でも。

「すき」

 どんな高い声よりも、
 ただその一言がうれしかった。






























「はじめて、なんだ」

 やや煮えすぎの白菜を一口食べてから、が言った。

「え」

 おはしから豆腐が滑り落ちて、ぽちゃんとだし汁をはねちらかした。
 服の上に落とさなかっただけ、まだマシだと思おう。

「……マジですか」

 責任重大、とかそういうレベルじゃないような。

「ホントです。大まじめに、はじめてです」

 声高らかに彼女は宣言した。

「いや、でも、血とか、出なかった、よ……?」

 しどろもどろに反論したが、彼女はひるまない。

「そういうこともあります」
「……はあ」

 そういうこともあるんですか。そうですか。うん、まあ、そうでしょうね。
 口の中で、豚肉と一緒に相づちをかみくだした。
 えっと、何の話だったっけ。

「責任取ってください」

 ほんのりの顔が赤いのは、つけなおした暖房とかガスコンロとかのせいじゃないんだろう。

「えっと、それはどういう……?」
「彼女にしてください」
「ちょ、ちょっと待って。これ、練習なんだよね?」

 確認するが、彼女は真剣な顔をしたまま、繰り返すだけだ。

「せーきーにーんーとーって。
「えーと、。この練習っていつ終わるの?」
「終わりません」
「は?」

 今度は器ごと落としそうになった。

「修行の道のりは長くて辛いのです。でも、二人ならいずれ栄光の高みへと上っていけるでしょう」
「えーと、二人っていうのは?」

 は黙って箸を自分と私に向けた。

「行儀悪いよ」
「とにかく、今度は本当に本当のホワイトクリスマスを練習します」

 どん、とこたつを叩いて力説する彼女は、熱っぽくこちらを見つめていた。

「だから、24日は空けておいてね」

 にっこり微笑んだ彼女には、どうやら勝てそうもなかった。




05.12.25 未明
はいはいはいめりくりめりくり。
めでたさも、ちゅうくらいなり、おらが春。てなもんですが、
今年はねとりあえず雪とかも降ってるし、切ない路線でいこうと思って。
(うちとこは降ってないですが)
ていうか、ブリーチのキャラがデフォの名前なのに、いろいろ設定が違ってごめんなさい。
日本で二番目に強い女子高生なら、片手で腕立てとか平気で出来ると思います(笑)

ところで今回は、ひらがなとか、ラブソングの歌詞みたいな言い回しとかを多用してますが、仕様です。
なんつーか、ベタベタを行こうと思って。(設定がベタじゃないからだなこれは)

の視点だとが何を考えているのかさっぱり分からないかもしれない……。
でも自分の中で一応つながってたりはするので、バレンタインあたりにでも、またこの二人で書きたいなあとか思っていたりなど。
保証はしませんが(笑)

当初の予定では、がっつりえろありのはずだったのですが、気分的にあっさりにしたくなってしまったので物足りない方、ごめんなさい(笑)

ではでは、長々とお付き合い頂きありがとうございました。
今後ともよろしくお願いします!