初夏頃に漬けた梅漬けを食べ終わったあとの木桶を、後できちんとたがねを締め直そうと思ってほうっておいたら、中に釣瓶落としの妖怪が住み着いて困っている。
いつものように御札でもつけて封印してやれば楽でよいのだが、元来は浅いところとはいえ地底に住む妖怪である、むやみに退治しては絶滅するやもしれぬ、あなたは妖怪を根絶やしにして外界と同じ環境破壊をこの幻想郷にまで持ち込むつもりなのか、なんとも慈悲がなく無礼千万なことである、とたまたま通りがかった茨華仙に諭され、霊夢はやむなく新しい桶探しにつきあっている。どうもすっぽりと嵌まってしまって抜けられないように見える。あるいは、よほどその桶が気に入ったのか。
しかしこちらとしてはおいそれと渡してやるわけにはいかない。その桶はまだ使い始めて十年かそこいらの新しい桶なのである。三百年ぐらい使い倒したものならまだしも、まだ現役の桶をむざむざ妖怪などへ下げ渡すのはもったいない。
「キスメ、これはどう?」
蔵の奥から代わりになりそうな手頃な桶を探しだし、しゃがみこんで見せてやる。魔理沙の家ほどではないが、古びた蔵には余計なものがそこそこ溜まっている。桶などは文字通り腐るほどあるのだ。事実、今差し出したのも良い塩梅に朽ちかけていて普通の妖怪ならば垂涎するであろう。
しかしキスメはふるふると首を横にふった。二つ結びがゆれる。感情は読めない。