魔理沙は両手でないと持てないぐらいの大きなマグの中にお湯を注ぎ、しょうが湯を作る。蜂蜜とすり下ろしたしょうが、それに檸檬の絞り汁を木の匙でぐるぐるとかき混ぜて、ベッドサイドのテーブルにおく。

「どうだ、調子は?」

ベッドの上に座り、素足をお湯につけて、毛布でぐるぐる巻きになったまま、霊夢は答えない。ただ小さく首を横に振った。あーともうーとも言わない。言えないのだ。扁桃腺をひどく腫らしてしまって、声が出ない。さらには何とも年頃の乙女にあるまじきことに、少しだけ鼻の穴からみずっぱなが垂れていたが、当人は気がつかないようだった。

「まあ、水分は取った方が良い」

再度声をかけると、霊夢はぼうっとした様子でこくりとうなずいた。熱いマグをそっと手にとって、膝の上にのせて、何か珍しいもののように見ている。霊夢の頭の中にもごく僅かながら残っていたはずの判断力というものが、今となってはすっかり揮発してしまったようだった。

「しかしお前が風邪を引くなんてな。槍でも降るんじゃないか」

 たまたま神社に遊びに来た魔理沙が、すっかり火の消えたこたつから出ずにぐったりと倒れ伏した霊夢を発見したのがおよそ一時間前。見かけた魔理沙が、これはもしや殺人事件かと思うほどの見事な脱力具合だったという。