「寒いよね。震えてる」 そう笑って、彼女は僕を抱きしめた。暖かくて、なんだかそれだけで涙が出そうになった。 「くっついてれば、あったかいから」 大丈夫だから。 彼女はそう言って、抱きしめたまま僕の背中を軽く叩いた。幼い頃に返ったような気持ちになる。こんなにも誰かの体温を近くに感じたのは、本当に久しぶりのことだ。いつの間にか、目頭が熱くなる。鼻を小さくすする。 悲しさや寂しさではなくて、懐かしくて優しい気持ちに触れて、心がほぐれて解けていく。 と、僕の頬をそっと舐める暖かな感触。 ミスティアが涙を舐めとってくれていた。 「リグルって、美味しいけど、ちょっとしょっぱいね」 微かに舌先をひらめかせて、彼女は言った。 「ひからびてる感じ。心が」 またその舌で僕の首筋を愛撫する。ひどくくすぐったくて、でもどこか切ない感じがして、どうにか声を漏らさないように耐えた。 彼女の唇が僕の唇に触れる。そのまま舌先でなぞるようにする。ただ唾液で濡らすだけで、口腔に這入っては来ない。ひどくもどかしくて、せつない。 僕はおずおずと尋ねた。 「なんで、僕のことそんなに舐めるの」 「だって、リグルってきっと乾物だから」 彼女はそう言って、笑った。 「スルメとか昆布と一緒。口に入れて、大事にふやかすと美味しい」 その言い方が可笑しくて僕も笑った。二人の秘密めいた笑い声が部屋の闇の中に吸い込まれている。 ふと窓の向こうに目をやると寒い理由が分かった。しんしんと雪が降っていた。さっきまでの強風とうってかわって音を吸い込むように静かに積もっている。 「お風呂入ったのに、あんまりふやけてないね」 まぶたの上へ舌を這わせながら、独り言のように、彼女は言った。 「あんまり石けんで洗うとにがにがになっちゃうのかな」 ミスティアが僕の指先を口に含んだ。彼女の口の中はひどく濡れていて、暖かくて、どきどきした。ちゅぽん、とすぐに出した。